相棒21 第13話 椿二輪

相棒21
(2022年10月期・テレ朝・水曜21時枠)

監督:橋本一(1)(2)(3)(4)(7)(10)、権野元(5)(6)(8)(9)(11)
内片輝(12)(13)
脚本:輿水泰弘(1)(2)、川﨑龍太(3)、光益義幸(4)、岩下悠子(5)(13)
瀧本智行(6)(10)(11)、山本むつみ(7)、森下直(8)、根本ノンジ(9)
櫻井智也(12)
エグゼクティブプロデューサー – 桑田潔
チーフプロデューサー – 佐藤凉一
プロデューサー – 高野渉、西平敦郎、土田真通
編集 – 只野信也
音楽 – 池頼広

https://www.tv-asahi.co.jp/aibou/

第13話 椿二輪
【ストーリー】

■個展

“情熱の画家”と呼ばれる牧村遼太郎の個展が薬師寺研吾の経営
するアトリエで行われる為に右京と亀山は出かける。

炎の絵筆とされる牧村は1972年世田谷区で生まれ育ち、
上穂美術大へ進学。その後結婚して3か月前の2022年10月に
亡くなる。

作者の顔写真が描かれているのを目にした亀山は見た目は
普通だと語る。もっとエキセントリックな見た目を想像して
いたという。しかし右京は見た目と才能は別物であることを語る。

彼の遺作となった「椿二輪」の絵を目にすると右京は亀山の率直
な感想を求める。
寄り添って咲く二輪の椿の花の油彩。

「特に情熱を感じない」

という亀山。

この絵を描き終えまもなく愛人と心中したとされ、自分自身と
愛人の姿にたくして表現したと言われていると説明する右京。
画風に心惹かれるものがあり自由闊達な表現には象徴主義の影響
を感じさせる。

・館内で悲鳴が轟く

右京らは椿二輪を見た後、別の作品を目にしていたところで
何者かが刃物で作品を切り裂き、右京らが近づくと突然人質を
取ってナイフを首元に押し当て時間を稼ぐ。
右京は「辞めなさい!」と声を荒げると、犯人は逃走する。

亀山が犯人を追いかけ、右京は現場で捜査指示を出す。
犯人は用意したバイクに乗って逃走する。
亀山は近くを通りかかった買い物帰りの主婦から自転車を借りて
追いかける。

一方人質に取られた梅田剛は顔に少し切り傷を負ったが、病院
に行くほどでもないとして拒否する。

右京はギャラリーのオーナーの薬師寺に対して原状回復出来れば
良いというが、ここまで派手に切られると裏打ち・レタッチを
施した所で元通りという訳にはいかないことを語る。

・捜一が現場入り

薬師寺から事情を聞く。
犯人に対する心当たりがないのか。ギャラリーでトラブルは
無かったのか。
しかし薬師寺は誰かに恨まれる覚えはない事を告げ、作者の
牧村は女性関係が派手で彼を愛した女性は多かったことを
語る。
その中の一人が大宮アカネだった。
数ある女性関係の中でもアカネは特別な存在と言われている
と右京も語る。
二人は共に死ぬ事を決意する程・・しかし心中は失敗し牧村
だけが亡くなりアカネは一命をとりとめていた。

・牧村の妻・智子がやってくる。

彼女は本当に椿二輪が切り裂かれたのかと問うと、責任者である
ギャラリーの薬師寺に対してセキュリティはどうだったのかと
語る。

一方右京の元には亀山から電話が鳴る。
三澄町の坂道で犯人を見失ったこと。しかし付近を探していた
ら、「ネギが無くなった」と告げ、また犯人が乗り捨てたバイク
が転がっていた。

●三澄町の坂道

捜一の三人が亀山の元にやってくる。

「カメがネギをしょって走ってるんじゃねー」

とうまいことを述べる伊丹。出雲はナンバーを照会したら
盗難車だったことを語る。しかしここで乗り捨てたので
あれば近くに住んでいるのではないかという芹沢。
付近を総当たりしようとして、亀山が捜一の三人に捜索範囲
の指示を出す。

・取調

牧村智子から事情を聞く。
すると彼女は犯人は男だと聞いているが”あの女”に雇われたの
であろうことを告げる。心中を企て生き残った大宮アカネの
事なのか。しかし彼女は心中ではなくあれは殺人であり殺された
のだという。夫は私の事を愛していた。他の女と死のうとする
訳がない。警察はただの自殺関与として処理し実刑にならなかっ
たとして不満を述べる。
右京はその意見に対して、

「三か月前の出来事が仮に殺人事件だったとして、何故アカネ
がご主人の絵を切り裂く必要があるのか?」

と尋ねる。

「嫉妬・・椿二輪に描かれた花は牧村と私」
「冬の寒い中寄り添うように咲く椿に牧村は私との夫婦愛を
椿に託して描いたもの」
「どんなに愛人を作ってもあの人はいつも私の元に戻った」

■感想

周回遅れになってしまった。
「一人の芸術家の生前描いた絵」、そして彼が「心中したとされ
る件」に対して、果たして残されたものたち/生きている人物が
彼のことをどれだけ理解していたのか、どれだけ理解しようと
していたのかということが描かれた。

意外と芸術家が芸術本来の才能を認められるには時間がかかる
ものが有り、生前に評価を得られる人というのはごく少数では
ないのか。
ちょっとした運とかトレンド的話題性に乗って注目を浴びるの
は悪いとは言わないがそんなものが皮肉な感じに映る。

画家に対する世間やマスコミの評価は「情熱の画家」「炎の絵筆」。
恐らくテーマとして考えれば、そうした言葉が先走る影響力を
行使した「先入観」がそれに該当する。
冒頭から見ていた椿二輪は本人がキャンバスに描いたものでは
なく他人が描いた贋作で有り、単純・純粋に見た亀山だけが
違和感を唱える。
(逆に本物を見て言われもせぬ圧倒さに心を奪われた窃盗犯の姿
も有る)

先入観と言えば初期の段階で薬師寺はアカネに「計画の実行が
成功したこと」を連絡しており、色々と視聴者にも先入観を
与えている。ただしあまりに早い段階でのことなので不自然
さのあまり額面通りに受け取る人は少ないのではなかろうか。。

芸術家の容姿や経歴は関係ないが、少なくとも芸術・作品の中には
小説家同様にこれまで生きて来た経験・体験が込められている
筈であり、遺作となった作品に対する見る目の違いが顕著だ
ったようにも思う。

趣味趣向は人それぞれ。芸術家なども数多くの人が居る。
彼の作品に対して、自死した現場を目にした後にも、その場から
離れずに窃盗に入って絵を盗んだ前科者は彼の作品に魅了されて
しまうというのだから不思議だ。
芸術の出会いも人の出会いも突如として訪れる。そんな嗅覚を
研ぎ澄まして置く事こそ現代の人たちには生きていく上で必要と
されるスキルなのかも知れない。

●今どきの犯罪、今どきの人間関係、今どきの捜査

今どきの人間関係が盛り込まれていて、誰かが何かの犯罪に
関わっているという役割分担型の犯罪で有った。
実行犯と計画したものは無関係で有り、ダークウェブを利用
した繋がりを持つ人物の介在がある。
実際に会わなくとも繋がりを見出すことは可能だが、
本当の関係とは言わない。
今の世の中どれだけ匿名性を追求しても監視カメラや通信履歴、
GPSなどの位置情報によって犯罪を犯しても逃げ押すことは
難しいと思われる。逃げている時の心労を考慮すれば相当
割りに合わない筈だ

例え顔見知りで有ったとしても一枚の絵を巡って盗まれた作品を
自ら作ってしまうのだから酷い。。
夫の気持を妻も愛人もギャラリーのオーナーも知ろうともせず
その死を利用する。そこに愛などあるはずもない。

彼が絵に託したもの。彼が自死に至るもの。絵を破った行動。
これら全ては嫉妬心でも作品に固執した形ものでもない。
彼らは全て金、話題性、名声の為の行動をしている。

大抵全く知り合いではない人物が関わってくると犯罪捜査は
難しくなる。全く見知らぬ二組のカップルが互いの殺したい相手
をそれぞれに殺害していくヒットコックの名作「見知らぬ乗客」
が描かれたころと違い、今ではデジタル的足跡は至るところに
残っているものだ。

●三か月前の心中騒ぎと今回の事件の違和感

鑑識は三か月前の心中騒ぎに於いて、殺人を否定し、自死である
ことを報告書に書いていた。
もちろん事実は自殺であり間違っていない。
相棒の鑑識の報告書は大抵は間違っていない事が多く、これまで
に間違っていたことが有ったかなと思い返してもなかなか出て
こない。これは凄いことだと思う。

心中かどうかを見分けるのは難しいが、心中ではないことを
見抜けるかも知れない一つの不自然な流れがある。
女性側はエカテリーナ・ジャスミンという神経毒を使い女性側は
死のうとしたが、致死量の葉を接種した訳でもなく、更には心中に
於いて牧村がナイフを使ったにも関らず何故アカネは神経毒を
使っていたのか。

更に今回の絵が切り裂かれた事件も同様で、そもそも二輪の絵
が誰が誰に該当するのか分からない。
勝手に俺だ俺だ俺だとタカアンドトシばりのギャグで責める
にしても証拠がない。

●芸術家は色恋沙汰が激しいという変な価値観

古い価値観の中には不自然なものがある。
お笑い芸人は多少異性との関係に於いて浮世を流して置いた
方がネタになるとか、宵越しの金は持たない方が成功する
などと言われる。
芸術の世界でも成功者の中に何人かいればそれが芸術家として
の常識や寛容さに繋がる。

「本能に任せた愛情生活は自ら芸術を深める為の営みを
考える向きがある。」
「一般常識の通用しないのが芸術の世界」

単なるネタ作りで、昭和版お騒がせユーチューバーみたいな
ものだ。

■面白く出来ていたところ

・一連の切り裂き事件は全て演技だった。

死人こそ出していないが、心を切り裂くようにして絵は切られた
かと思われた。しかしそれは贋作であり、破かれる運命に有った。

・絵に描かれた二輪の椿

近所の写生をしていた牧村。
お寺の住職からも話を聞くことになるが「侘助椿」という
早咲きの品種がこの界隈に植えてある。開花するのは1月から3月、
そして12月だ。普通の品種ならば椿は4月か5月に咲く。

遺作となる椿二輪。

描かれた頃の状況を調べてみると、愛人とは昨年の春/桜が満開
の頃に恋に落ちている。

・現場から犯人を特定

「額縁」についてもドラマでは重要な謎解きアイテムとなった。
実は絵が盗まれれた三か月前には額縁は盗まれておらず、
中身の絵だけが盗まれる。その額縁に繊維が残っていて窃盗犯
が判明していく。

・窃盗犯が隠したもの

絵を盗んだことは勿論のこと、この人が絵を盗んだ正確な日時
を話そうとはしない。盗みに入ったのは昨年の10月22日。
それは心中事件の通報と同じ日だった。

■その他

・捜査一課のローラー作戦

バイクで逃走する犯人に対して自転車で追いかけた亀山。
笑えたのは犯人のバイクが乗り捨てられていた為に付近に
住む人物だとされ、ローラー作戦をかける事になるが、割り振り
を決めたのは亀山だった。

■出演者

杉下右京 …… 水谷豊 (警視庁警視庁・特命係)
亀山薫 …… 寺脇康文 (1と5代目相棒、正式復帰)

伊丹憲一 …… 川原和久 (警視庁刑事部捜査第一課員)
芹沢慶二 …… 山中崇史 (警視庁捜査一課。伊丹の後輩)
角田六郎 …… 山西惇 (警視庁組織犯罪対策五課)
**内村完爾 …… 片桐竜次 (警視庁警視長・刑事部長)
**中園照生 …… 小野了 (警視庁警視正・参事官)
**益子桑栄 …… 田中隆三 (警視庁鑑識課員)
小出茉梨 …… 森口瑤子 (家庭料理店”こてまり”の女将)
出雲麗音 …… 篠原ゆき子 (警視庁 交通機動隊から捜査一課)
**衣笠藤治 …… 杉本哲太 (警視庁副総監)
**甲斐峯秋 …… 石坂浩二 (警察庁次長・警視監 警察庁のキャリア官僚)
亀山美和子 …… 鈴木砂羽 (フリージャーナリスト、”こてまり”見習い)
**土師太 …… 松嶋亮太 (サイバーセキュリティ対策本部特別捜査官)

牧村智子 …… 中山忍 (牧村の妻、父も芸術家)
大宮アカネ …… 花澄 (洋画家・牧村の愛人)
薬師寺研吾 …… 由地慶伍 (「ラフィカ Art gallery」オーナー)
梅田剛 …… 佐久間祥朗 (ギャラリーの客)
牧村遼太郎 …… 小久保丈二 (画家・3か月前にアカネと心中を図り死亡)
小島純一 …… 北本哲也 (「椿二輪」を切り裂いた男)
住職 …… 小川隆市
自転車の女性 …… 勝又悠里

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