相棒22 第4話 天使の前髪

相棒22
(2023年10月期・テレ朝・水曜21時枠)

監督:橋本一(1)(2)、権野元(3)、守下敏行(4)
脚本:神森万里江(1)(2)、岩下悠子(3)、森下直(4)
エグゼクティブプロデューサー – 桑田潔
チーフプロデューサー – 佐藤凉一
プロデューサー – 高野渉、西平敦郎、古革昌実、
土田真通
編集 – 只野信也
音楽 – 池頼広

https://www.tv-asahi.co.jp/aibou/

第4話 天使の前髪

【ストーリー】

■オーディション会場

日米合作映画「Under a Strange Sky ~見知らぬ地で~」
のオーディション会場。

劇団W所属の久保崎美怜(36歳)は審査員は8名が居る中
で一人演技をする。
演技が終わった後、退席する際に突然工藤祐一(52歳)
から声をかけられる。
彼は美怜の演技の感想として一言語る。

『熱演は認めるが独りよがり。芝居は人物の感情を
如何に観客に伝えるかが一番重要だ。勘違いして
いるのではないか』

■アフターファイブ

仕事が終わった右京と薫はクラシックを聞きに行く。
新しく出来たホールのこけら落とし公演。

道中で右京からは色々と教えてもらう。

・交響曲はホールによって響きが違う。
・愛好家は楽団や指揮者、演出家だけでなく、どの
ホールで演奏されたものかを聞き分けられる。

しかし薫はクラシック音楽が苦手で完全に付き添う
形だった。

●ホールに行く途中で女性・久保崎美怜が不自然に
しているのを目にする。
服や手には血が付着していた。
彼女は警察を呼んで欲しいと訴える。

■中野区東的野のマンション

女性に案内されて現場近くのマンションに入ると男
が胸を刺されて倒れていた。

■中野中央警察署

●取調室

特命係の二人は久保崎美怜から話を聞く。

・私は小さな劇団員
・一週間前にある映画オーディションがあり、男は
審査員の一人だった。
・オーディションでは厳しいことを言われた。
その夜にショートメッセージが来て「今日は出過ぎた
ことを言った」との内容。
・電話番号は恐らくオーディションの応募書類から
かけてきたもの。
・その男からはその後電話が鳴ったこと。
「あなたの中に眠っている素晴らしい才能を発掘した
い」

それらを聞いた薫は立場を利用したセクハラなのかと
告げる。

美怜はそのことは断ったが、メッセージには少し
救われたこと。今後の励みにするという。

しかしその後も何度も電話がなり、彼は「自分とコネ
ができれば今後のオーディションでも有利になる」
言われていた。
相手は審査員であり着信の拒否はできないのでその都度
曖昧ではあるがその話を交わすようにしてきたこと。
しかしそれでも彼は家にまで来て押し倒されたという。

「一目見た時から君を好きになった。」
「チャンスを掴め、幸運の天使は前髪しかないんだ。」

もみ合った末、果物ナイフで彼を刺したことを認める。

●捜一が来る

特命係はいつものように部屋から追い出される。

■美怜のマンション

右京と薫は改めて現場を見に行く。

薫は正当防衛は明らかだと語る。
しかし右京の疑問はいくつかある。

・なぜ彼女は襲われたときに果物ナイフを手に
出来たのか。

仮に水切りかごに有りもみ合った末に落ちてきたと
しても、そもそもゴミの中にはそれを切るような残骸
がない。

燃えるゴミの日は明日であるのに・・

「彼女が嘘をついていると思ってます?」
「彼女は女優ですから」

■感想

一人の男性が女性宅で刺殺される。
加害者は劇団を主宰する女優の久保崎美怜。そして
被害者は自称プロデューサの工藤祐一。

美怜は一週間前にオーディションを受けていて、
その男はオーディション会場に勝手に顔を出し、
女性の演技に関してあれこれと厳しいことを告げる。
その後は突然態度を翻すが如く、彼は低姿勢で
彼女へ接近を図ろうとしていたことが判明する。

今回のドラマでは「正当防衛」「パワハラ」
問題が取り上げられた。正当防衛に該当するのか
どうか。話の流れと共に、全ては正当防衛への道に
つながる証拠しか見つからないところが逆に違和感
を覚えることに繋がる。

偶然という名の必然的な流れ。
それはまるで計画したかのように完璧なものとして
進行しているように見える。
美怜の役柄の中に女優だけでなく、脚本や演出も
手掛けていたという設定はそういうところで上手く
効果を発揮している。

[事件]

被害者 : 工藤祐一 (52歳)
発見現場 : 容疑者のアパート / 中野区東的野
死因 : 胸部を刺された事による出血性ショック死
死亡推定時刻 : 11月10日(月)
職業 : 映画プロデューサー
備考 : 被害者を刺した人物は判明している。
現場近くにいた女優の久保崎美怜。
美怜は元々演劇集団「ホタル座」に在籍し、10年前
に一人で劇団「W」を立ち上げている

●演技することとは?

人はだれでも演技するものではないか。
対人関係に於いて不本意なことが起きた場合など
嘘をついたり誤魔化す為に演技する。
例え自分にその非がなくても、相手との関係を
円滑にしておくために演技する。

俳優にとって演技することとは一体何なのか。
自分の中にある気持ちを表現するものなのか。
脚本の中の主人公になりきり観客に分かるように
表現する代弁者のようなものなのか。

人生そのものが演目であり日常生活のすべてが
演技であるという事は想像に固くはないものが
有った。

妹とのやりとりに於いて姉は彼女の笑顔の裏に隠さ
れた絶望の心情を見抜くことが出来なかった。
身内であっても心の中を見透かすことは難しいもの
だ。

●このドラマの中で起きた罪

・工藤は美怜の妹を強姦した罪が有り、その彼女は
自殺してしまった。工藤にはそうした事実は伝わら
なかったのかが気になる。

・強姦された事実を劇団の主催者らしき人物に
告発したけれど、彼女は被害者一人の問題よりも
公演が始まることで損得勘定で動いてしまった。

・工藤は公演でのあらゆる費用を持ち逃げし
アメリカに逃亡している。なぜ警察に届け出て
いないのかがよくわからない。少なくとも警察に
話していれば、帰国時に逮捕出来たはずである。

・工藤は美由だけでなく、姉の美怜にも襲いかかる。

●現代のハラスメント

最近ハラスメントにも色々とあるなと感じさせる。
対人関係に於いて理不尽にも嫌なことが発生し、
反論の余地がない(出来ない)ところで責められ続ければ
何らかに分類されるハラスメントに該当するかも
しれない。

そういう意味ではシナリオはオーソドックスに
昔から存在している噂レベルだった芸能界や演劇界に
於けるパワハラ・セクハラ問題を取り上げたもの
のように見える。(今は現実的に発覚している)

「役を取る為に枕仕事も余儀なくされる」など・・。

パワハラで済めばまだマシな方(こういう言い方だと
誤解があるかもしれないがここでは)だが、被害者であり
犯人の男・工藤は、強姦罪だけでなく、劇団の公演
費用を持ち逃げしてアメリカに逃亡したという過去
まで存在している。それでいてそれなりの地位を
掴んでいるのだから憎らしい。何を罰せられることも
なく、本能のままに生きて他人を貶め食い物にして
来た人物だ。

対象的に久保崎家の家族は不幸な道を転げ落ちて
居くことばかりが描かれる。
姉が中退して上京したことをきっかけにして両親の
死、そして妹の上京。上京した先での妹の死。
劇団集団の事件のもみ消しと共に、金を持ち逃げ
されて劇団が解散に追い込まれて仕事・趣味までも
が奪われている。

それだけに彼の死は苦しめることなく単なる復讐
だけで終わり、相手の人生を苦しめることは
何もなかったという事実が少々この手のドラマに
於いては手ぬるさを覚える。

●告発はすべて失敗に終わる

今回のエセブロデューサーは一人だけにとどまらず、
過去にわたり彼女の妹を相手に立場を利用して自らの
欲望を満たして来た。その被害者の声が社会の耳に
届くことはなかった。

妹の被害を劇団主催者に訴えるが、これから始まる
劇団公演の為に話を聞くことはなかった。

警察官に助けを求めるが、その声も相手の耳には届か
ない。

ここ最近の相棒の流れだと何かを告白・告発する
流れの中にはSNSを利用するという方法もあるが
それが今回一切無かった。

●言葉の呪縛、約束事は人を拘束する

妹の言葉が夢ではなく呪縛となって、美怜の人生を
縛ってしまう。最期に残した言葉は・・

「お芝居を辞めないで」

余談だが11月12日(日)に放送した海外ドラマ「DOC」
のS2の9話の中にガブリエルというエチオピアから
イタリアに医学の勉強に来た彼は、故郷に医療を
もたらすという約束で村人が彼に出資する形で資金を
捻出し、村から送り出した。
しかし予測できない未来への約束は
安易にするものではない。このガブリエルも現在
その約束が彼の心を縛り続けて彼の人生からあらゆる
選択肢を取り上げている。

DOC S2-9
https://dramatimez.sakura.ne.jp/blog/?p=8286

●シナリオのほころび

どんな完成度の高いシナリオで有っても気になる部分
がない訳ではなく、明らかに目立つ部分がある。
それを証明できるかどうかは刑事・検察側の活動に
かかっている。

シナリオ内でも証明するのは難しい難所に於いて
俳優がゆえの演技・演出が試されるシーンが有り、
その都度捜査員はそれが本当なのか演技なのかを
考えさせられる。

「嘘をつくこと」「演技すること」
それらは行動心理の分野からすればよほどのことが
ない限りは騙すのが難しいはずだ。

完璧に用意された状況証拠だが、完璧すぎるほどに
違和感を感じる。

前回のエピソードと同様に盗聴器の流れが全てでは
有ったけれど、冒頭での右京と亀山の雑談の中で
大きなヒントを述べている。
音響、リバーブの響きは特有のものが有り
鑑識課または警視庁内の分析版はその事実に気が付か
ないというのは相当違和感を覚える。

更に今回の場合、殺した場所は音響の響きが違う舞台
や稽古場であり、自宅では無かった。
その遺体を運ぶという行為自体が少々設定に無理が
ある。

●姉妹の考え方の違い

二人が信条としている言葉の違いを見るとなんとなく
性格の違いが見て取れて面白い気がする。

「お芝居の神様は努力を決して見過ごさない」
(美怜)

「幸運の天使には前髪しかない」
(美由)

下の美由の言葉は古代ギリシャのことわざ。

姉は努力すればチャンスは掴めるものだと信じている。
妹の言葉の意味は、チャンスは来るがその時に見逃し
たものは見過ごしてしまうというような意味合いが
有る。

●鋭い観察眼と謎の行動の先

後付だと言われようともやはり右京さんの観察眼は
すごい。

・盗聴器が仕掛けられていた電卓

現場から無くなっているものとして右京はそれを
確認し、同じ電卓がある居酒屋「伊太利の里」との
接点を見つけ出す。

・盗聴器を仕掛けられる人物の特定

これは実に簡単なロジックだった。
バイト先の店長がそれに該当する。
美怜とそれなりに親しい関係に有って、スケジュール
をある程度把握して合鍵を作る事が出来る程の近しい
関係者だ。
この盗聴器にはその先があり、盗聴されている
ことを逆手にとって美怜は演技をする。

・蕨市南芝上コンフィマート南芝上店のレシート

一枚のレシートに目をつける。
それを見ると11月9日(木)に水と生花を購入していて
事件が起きたのはその翌日のことだった。
花を手向けたのは妹へのものだった。

●結論

ドラマの興味は美怜は単独犯か仲間がいるのか、
それとも美怜は脅されているのかのいずれかの
問題を解くのが難しい内容だった。
遺体を動かすことになる流れから考慮すると、益々
共犯者説は具現化していった。

右京さんはその辺はすぐに分かっていた感じだけど
視聴者的には共犯の確率が高いのではないかと思わ
せる作りだった。

共犯者の候補として、過去の劇団員の中で工藤の
被害者の人物、そして唯一の劇団員のバイト先の
店長などがあげられる。

盗聴されて何か弱みを握られているのか。
それとも逆に立場が逆転して相手を利用している
のか。

彼女は「偶然」をジャッジに設定した。
一連の事件は盗聴犯が盗聴した論音データを警察に
送らない限りは真相にたどりつく流れは少々もたつ
いたかもしれない。

■その他

●警報第36条1項

『急進不正の侵害に対して自己または他人の権利
を防衛する為、やむを得ずにした行為は罰しない。』

●美和子は不満を爆発させ、小出は無難な発言をする

レストランで食事した夫婦。
美和子は女性がどれだけ生きづらいかを男性は
分かっていないと愚痴る。

「痴漢」「盗聴」「盗撮」「セクハラ」「ストーキ
ング」「DV」

女というだけで生まれた時から沢山の危険と恐怖に
晒されている。

更に「可愛くしろ」「綺麗にしろ」「男を立てろ」
「結婚しろ」「子育てしろ」「活躍しろ」「わきまえ
ろ」「介護しろ」「目立つな」「反論するな」
「抵抗するな」

■出演者

杉下右京 …… 水谷豊 (警視庁警視庁・特命係)
亀山薫 …… 寺脇康文 (1と5代目相棒、)

伊丹憲一 …… 川原和久 (警視庁刑事部捜査第一課員)
芹沢慶二 …… 山中崇史 (警視庁捜査一課。伊丹の後輩)
角田六郎 …… 山西惇 (警視庁組織犯罪対策五課)
内村完爾 …… 片桐竜次 (警視庁警視長・刑事部長)
中園照生 …… 小野了 (警視庁警視正・参事官)
益子桑栄 …… 田中隆三 (警視庁鑑識課員)
小出茉梨 …… 森口瑤子 (家庭料理店”こてまり”の女将)
出雲麗音 …… 篠原ゆき子 (警視庁 交通機動隊から捜査一課)
亀山美和子 …… 鈴木砂羽 (“こてまり”見習い)

久保崎美怜 …… 藤井美菜 (女優、劇団「W」)
中村修 …… 瀬口寛之 (居酒屋”伊太利の里”店長)
久保崎美由 …… 石崎日梨 (美怜の妹)
工藤祐一 …… 大内厚雄 (舞台演出家)
有村凛 …… 朝井瞳子 (劇団「W」、劇団員)
皆川隆二 …… 島丈明 (“グローバルビジョンピクチャーズ”)
黒岩希美 …… 中條サエ子 (演劇集団「ホタル座」団員)
…… 藤田昌宏 (“小堺不動産”社員)
…… 山崎健二 (“妙南寺”住職)

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