アストリッドとラファエル 文書係の事件録
(Astrid et Raphaëlle) 2020 , FRANCE
制作/FRANCE TÉLÉVISIONS、JLA PRODUCTIONS
、Be-FILMS
、RTBF (Télévision belge)
原作/
制作/Alexandre de Seguins、Laurent Burtin
プロデュース/Jean-Luc Azoulay、Jean-Sébastien Bouilloux
https://www.nhk.jp/p/astridetraphaelle/ts/PG1M4JJQQV/
第6話 閉ざされた部屋 Chambre Close
脚本/Alexandre de Seguins、Laurent Burtin
監督/Elsa Bennett、Hippolyte Dard
【STORY】
■現場
アパートの管理人(Michel Vivier)は、革のバッグを
持ち階段をあがる。ピッキングで鍵を開けるが、室内
から二重の鍵がしてある。バールで強引に鍵を壊して
ドアを開けると室内を見て回る。
するとこの部屋に住んでいるアンリ・フランクールが
床に倒れて亡くなっていた。
■パリ警察署 / commissariat de Police
ラファエルは署にやってくるとみんなに”オハヨー”の
挨拶。マルチュールとはロッカールームで逢う。
話題はアストリッドの母・マチルドのこと。
先日ラファエルはマルチュールに頼んで調べってもら
っていたが、彼女はアメリカに居て現在は療養の為に
フランスに戻っていることが分かる。
アストリッドに話すべきか。
彼女は予想外のことを言われると取り乱す可能性も有り
自分が口を出す権利があるかも分からないという
ラファエル。友達ならばあるよとアルチュール。
そんなラファエルに息子のテオから電話が鳴る。
今夜は母親と会う日だったが父親と一緒にライブに
行きたいのだという。仕方なく了承する彼女。
更にデスクの電話は警視正からの連絡が入る。
■事件・事故発生現場
ラファエルはアストリッドを連れて現場のアパートに
行く。
アパートには既にフルニエやバシェール警視正も来て
いて鑑識作業をしていた。総動員で捜査していること。
ラファエルはそんなに重要な事件なのかと問うと、
警視正は『著名人の自殺』だとし早急に処理しないと
いけないという。
被害者は、アンリ・フランクール。
ラファエルは聞いた事が無いというが、アストリッド
は彼に関する情報を語る。
1970年10月2日生まれ。ペンネームはエリック・エルネ
スト。推理小説作家。
表には全く出てこなかった人だが10年間に30冊を大ヒ
ットさらたベストセラー作家だった。批評家には嫌わ
れていたがファンは多かった。
「成功していたのならば何故自殺する?」
とラファエルは尋ねる。
バシェールはドアには内側から鍵が2つもかかっていた
のでどう見ても自殺だろうとし、調書を書いて終わら
せろと命じる。
アストリッドは机の上に有った紙を見て「96ページ」
と呟く。
ラファエルが有名な小説家なのに写真を出さない理由
が分かったとして、床で死んでいるアンリの遺体の顔
はヤケド痕が酷かった。
遺体は口から血を流していて、唇と爪が赤紫色。
状況証拠から見てシアン化カリウムを飲んだものだと
思われるというアストリッド。
フルニエは今ラボから結果が出たが、彼の死因は青酸
カリ(シアン化カリウム)であることを告げる。
血中と遺体の傍のグラスからも検出された。
恐らくウイスキーに混ぜて飲んだであろうこと。
牛も殺せる程の致死量だという。
アルチュールはラファエルに対して第一発見者がキッ
チンにいると報告に来る。彼はこの建物の管理人。
ラファエルは聞き込みにアストリッドも同行して欲し
いとするが、彼女は先生とここで毒物を特定すると
いう。
「優しくしてあげてね」
「一緒に居ると勉強になります」
「でもあなたに負かされちゃうと時々すねる事が有る
ので気をつけて」
・アストリッドとフルニエ
彼女はフルニエに対してグラスに毒が付いていたが
「ボトルにも付いていたのか」尋ねる。
フルニエは質問の意味が分からず気になっている事が
あるならばハッキリいってくれという彼。
「言い負かさないように気を使っている」
というアストリッド。
「ボトルに無くグラスにだけ入っていた場合、毒は
直接グラスに入れられたことになる。毒の容器が
見付かる筈。」
それを聞くとフルニエは急いで容器のボトルも調べる
ように連絡を入れる。
・管理人に話を聞く。
ラファエルは第一発見者の管理人に話を聞く。
何かいつもと違うと思いドアを開けようとしたが、
内側から2つも鍵がかかっていた。
「何故頑丈に締めていたか?」
彼は変わった人で、人前に出るのを嫌っていた。
顔のヤケド跡を見ると分かるでしょうとし、足も悪くて
歩けなかったこと。
「ヤケドの原因」は知らない。
「訪問者」は殆どなくて、看護師の訪問さえ断って
いた。誰かと居るよりも一人を好んでいた。
・フルニエがやってくる。
ラファエルに対して問題だという。
バシェールに毒の入った容器が見付からなかったこと
を報告する。アパート中を隈無く探した。
彼が自分で入れたならば容器はあるはず。誰かがグラス
に入れて容器を持ち帰ったのかとラファエル。
それならば鍵が2つかかった部屋からどうやって出た
のか?とバシェール。
『密室の謎』ですね。
典型的な推理小説のテーマだというアストリッド。
今夜までに手がかりを探して、それまでは自殺という
ことにするという。
■喫茶店
ラファエルは客の少ない時間帯にアストリッドを
連れて行く。店主のミシェルはBGMをかけないし、
ここは私にとっての「紙の部屋」。ここで考え事
をするというラファエル。
ラファエルはいつものものを注文し、アストリッド
はミネラルウォーターを頼む。
ラファエルはアストリッドが犯罪小説/推理小説に
詳しい事を知り色々と尋ねる。
主役が謎を解き明かす前に答えを見つけるのが好き
だというアストリッド。”結ばれない恋愛話”とか
“強くて自立した女性が活躍する話”には興味はない
のか尋ねると、全くないという。謎を解いたら本を
閉じる。作者の罠には決してかからない。捜査官に
なったつもりで楽しむのだという。パズルみたいな
ものなのかと問うと、そうだという。特にエリック・
エルネストの作品は難しくて複雑で全部の本を読んだ
とのこと。
「何時からパズルに興味を持ち始めたのか?」
そう問われて彼女はあることを思い出す。
●回想シーン
父・アンギュスは16歳のアストリッドから日本の寄木
細工の「秘密箱/からくり箱」を渡される。開ける
為には決まった手順が有り、それを開けるためには
大人でも何時間もかかる。手伝ってあげるという父の
手を払いのけると彼女は一人で開けたい姿勢を見せる
【感想】
何から言及したら良いのか分からないけれど、ドラマ
では「密室トリック」を扱い、動機についても幾つか
の伏線を張り巡らして一見すると分からないような
作りになっている。
ドラマの中で設定された小説家のペンネームは
『オペラ座の怪人』の主人公からの引用で、この物語
を少しでも知っていると殺されたフランクールがファ
ントムの生い立ちに似ているのではないか・・そして
その延長線上にはアストリッドの生い立ちにも繋がって
いるのではないかと思わせる流れとなっている。
愛されたい人から愛を受けずに居たのは誰なのか。
初めてアラン・ラマルク邸を訪れた際には、
亡くなったとされるフランクールよりも随分豪邸に
住んでいるなとか、本が売れていないことに
言及して彼がどういう反応を示すのかを試し、弱点が
「自尊心」であることを突き止める。
ただ彼の本は実際には売れていた訳で、ここでムキに
なる必要はない。
殺人の動機付けの流れとして過去の事件を差し込んで
来た所は良かったのだけど、このドラマで肝になって
いるのがその部分に当たる為、当時の捜査があまりに
杜撰で真相は別にあるとするような流れの中に説得力
があまり感じられないところがこのシナリオの残念な
ところだ。
小説家の作ったトリックを見破ることへの快感はある
のだろう。
小説家にも色々と居るが、実際に体験したこと、経験
したことを基にしてシナリオを書くのが大勢だろう。
本を読めば一連の事件の流れのヒントが書かれていて
それを現実的に証明していく流れになれば面白いもの
だ。
更に複雑にしているのは、ペンネームの存在であった
り金の流れがオフショア口座に入れられているという
こと。人々の証言が何処まで信用できるのかも正直
分からないような作りで有り、小説は批評家や
メディアさえも欺くだけの力がある。
● 殺人事件現場
まだ自殺か他殺か分からず、寧ろ上層部は自殺で
済ませようとしていた。こういう流れが過去の山小屋
での事件でも起きたのかも知れないね。
室内は密室で、しかも2つの鍵が掛けられていた状態。
青酸カリ/シアン化カリウムを飲んで死んでいた。
グラスからその毒が検出される。
亡くなったのはこの部屋の主のアンリ・フランクール。
●捜査の基本とは何か。
「売れていた人物は何故自殺しなければならないのか」
「服毒自殺したのであれば毒の入ったグラス以外の
容器なり入れ物は?」
という些細な疑問を無視せずに調べていくことに
意味があると改めて感じさせる。
●人々の性格
今回は意外と性格はドラマで重要なファクターとなっ
た。
アンリ・フランクールという人物はかな変わった人物。
顔に火傷の跡があるので人前に出たくない気持ちも
分からないこともないが、売れている作家ならば復顔
するだけの金は有りそうだ。
アストリッドが検視官フルニエと二人になるという
シチュエーションがある。ラファエルは彼女にアドバ
イスする。
「優しくしてあげて。あなたに負かされちゃうと時々
拗ねることがある」
しかし嘘の付けない彼女は、
「言い負かさないように気を使っている」
と語る。
ニコラはアストリッドに負けまいとして色んな話を
引き合いに出したのだろうか。ある種のマウント取り
によってラファエルの気を突き付けようとしたのか。
ラファエルは息子との時間を父親によって取られて
しまった。息子は父とライブに行きたいのだという。
大抵ドラマ場合で親権争いをしていると、子供の好き
なものを与えて占有しようとする。
ISIOW(イジオウ)というメタルバンドのライブ。
母は息子がメタルを聞くなんて早いと感じているが、
実はラファエルが好きだったバンドで息子はライブ
に惹かれたよりも母親の影を追ってのことかも知れな
い。
しかしそれを逆から読むとMOISI(モイジー/かび臭い)
という意味になり、捜査進展の大きなヒントになる。
●ドラマの中の日本色
アストリッドが日本の文化の規則性に心地よさを持って
いることから、時々日本文化を目にする。
彼女の特別な部屋は一畳分の畳があり正座しながら
資料を見ていた。
また今回は回想シーンの中で「秘密箱」を解いて遊ぶ
シーンがある。
アストリッドにしてみれば、箱を開けることが出来れ
ば中には何かがあると感じていたのかも知れない。
開け終わった後、そこには何もないところに複雑な
思いがしただろう。この時に母親のことを無味乾燥的
に眺めるようになったのかも知れない?
●第二の殺人・・実は第三の殺人だった
ドンスニという人物が殺害される。
過去にフランクールの恋人だったソフィー・ノーベル
とアダムと三人でアルプスに登った際に、火災によっ
てソフィーが亡くなっている。
その時の山小屋のオーナーがドンスニで彼には
「女性好き」という事実が有り、ソフィーは彼によっ
て襲われたのではないかとされていた。他にも被害者
がいるとのこと。
・第一の殺人
ソフィー・ノーベル。フランクールの恋人
火災で出した死者が一人。
アルプス消防隊は事故処理として扱った。
1987年12月12日に記録したもの。
・第二の殺人
アラン・フランクール。
1970年10月2日生まれ。
冒頭で自宅アパートで殺されていた人。
青酸カリを飲んで死んだ。
・第三の殺人
ド・モンスニ。
火事で焼けた山小屋のオーナーの名前。
●『アダムの山 Montagne D’Adam』
報われない会いに壊れていく男の話。
アストリッドによると
「片思いの男性の話で女性は彼に好きではないと
言っているのになかなか男は諦めようとはしない。
馬鹿げている」。
それを書いたのは文脈やら文体からしてフランクールで
あることを見抜いた。そのまんま名前がタイトルに
なっているし、山で起きた出来事が書かれている。
30年前に起きたことだが、本当は何が有ったのかを
フランクールは調べていたのだという。
ただこの流れにも違和感があり、フランクールが
動き回るような性格ではなくなっていること。
恋人の死で広場恐怖症になっているし、動いている
のであれば頻繁に外に出て行く姿が見られていたので
はないか。
管理人はドンスニの姿は見ていたが・・
●完全犯罪はない
・書きかけの小説96ページ
現場に落としてしまった。犯人が描いていた計画は
変更を余儀なくされた結果、綻びが出てくる。
ラマルクの部屋に置いてあったタイプライター。
「e」の文字に特徴があるようだ。
・被害者の毒の付着
親指と人差し指に毒が付着。容器に入っていたのでは
ないかとして探す。
簡単に持てる固形物ではないかということになり
製氷機から青酸カリが検出される。
■アストリッドに関すること
いよいよ母親が見つかったことをラファエルはアスト
リッドに語る。
別の流れではあるが、パズルの話や雑談に対する
言及の中で彼女は以下のように語っていた。
『会話の中で本題と無関係な個人的な情報を交わす
意図がよく分からないのですが私なりに努力して
みようと思います。実はパズルに執着する理由は母と
関係が有ります。私が小さい頃、母が出て行った時
にあるものを一つだけ残していったのです』
「秘密箱」の所にも書いたけど、彼女の母親に対する
気持ちはどうなのか。
これは息子と時間を過ごせず手持ちぶたさなラファエル
が、息子との電話の中で平静を装っていたのと同じよう
にも感じる。
●曖昧な表現
・「入り込めなかった」->「興味が持てなかった」
・「急ぎの用事がある」->「予定外です」
・「秘密」と明確に言って欲しい。
●「社会力向上クラブ」
今回もこのクラブで互いのことを語り合う。
この会では雑談、個人的な情報を交わすところだけど
それが主題だとアストリッドは無意味なものとは
違うことが分かるのだろうか。
警察の捜査関係の話を全て話してしまう。
ラファエルが来た際には、この会の会員はみんな話の
流れを理解していた。
ルールを守るのが彼女の性格的なものにもなっているが
二つのルールが有った場合(警察の守秘義務、クラブの
守秘義務)、意外と自分の好奇心が満たせる方のルール
を取るようだ。
■その他
●デュディユルの手口
マルセル・エイメ/Marcel Ayméが1943年に書いた短編
小説「壁抜け男/Le Passe-muraille」。
密室殺人事件の流れでニコラが引き合いに出した。
●密室の謎を7つタイプに分類する
作家のジョン・ディクスン・カー/John Dickson Carrが
1935年に発表した「三つの棺/The Hollow Man」の
第17章「密室の講義」の中で密室トリックを分類して
7つに分けている。
1) 犯人は隠し持った装置を使って殺害
2) 被害者は死んだように見えたが実は生きていた
3) 殺人では無く偶然が重なって殺人のように見えた
ドラマの中ではアストリッドが話していた所をニコラ
が話を遮ってしまった。
●ペンネーム、エリック・エルネスト
エリックは『オペラ座の怪人』の主人公の名前。
エルネストはそのモデルになった実在のピアニスト
の名前。
●作家のロマン・ガリ
甥の名前を借りてエミール・アジャール名義で作品
を書いていた。
中盤にドラマではエリック・エルネストの名前で小説
を書いているのはフランクールではなくラマルクで
あり、それをバラそうとしたから殺されたのではない
かという話になる。
【SOUNDTRACKS】
・
【出演】
アストリッド・ニールセン (Sara Mortensen) 犯罪資料局・文書係
ラファエル・コスタ (Lola Dewaere) 刑事・警視
ニコラ・ペラン (Benoît Michel) 刑事
カール・バシェール (Jean-Louis Garçon) 刑事・警視正
アラン・ガイヤール (Geoffroy Thiébaut) 犯罪資料局・局長
アンリ・フルニエ (Husky Kihal) 監察医
アルチュール・オンギャン (Meledeen Yacoubi) 警部補
アンギュス・ニールセン (Aliocha Itovich) 父、警察官
テオ・コスタ・ルジェ (Timi-Joy Marbot) ラファエルの息子
16歳のアストリッド (Sylvie Filloux) 学校に通う
ポール・ジュノ (Ariel Wizman) パナム出版、編集者
アラン・ラマルク (Stéphane Guillon) 小説家
ウィリアム・トーマス (Jean Benoit Souilh) “大人の自閉症友の会”
マックス (Clément Lagouarde) 自閉症
アリス (Lizzy Brynn) 自助会・メガネ
ギヨーム (Guillaume Franchin) 自助会・アストリッドの隣の人
(Michel Vivier) 第一発見者、アパートの管理人
ミシェル () 喫茶店の主人、「紙の部屋」
アンリ・フランクール () 小説家、PN:エリック・エルネスト
ソフィー・ノーベル () フランクールの恋人
**マチルド・ニールセン (Elisabeth Mortensen) 母